鼻から胃カメラ
潰瘍だ、潰瘍だと言っていたが、実はまだ胃カメラを飲んでいなかった。
でも潰瘍の薬が効いていたし、症状がそうだったので「ストレス性潰瘍」と言う病名がつけられて、対処してきたのだが、やっぱりきちんと検査しておこうと昨日、仕事をしつつ胃カメラを飲んだ。
こういう時病院勤めは便利なんだか、そうじゃないんだか。
前日の夜8時以降は固形物は一切口にせず、朝も当然朝食抜きで仕事をし、普通の患者の検査の最後、昼近くに検査を行なった。
食事を抜くこと自体が私に取ってはストレスだったのか、検査の前の晩はうっかり食事をしてしまい、胃カメラが飲めないという夢を3回も見た。そんな夢ばかり見るものだからすっかり寝不足だったが、妙な興奮をしていてあまり気にならなかった。
私も一応職員健診で定期的に胃カメラを飲まなければならないお年頃になっているので、胃カメラは既に2回。バリウムを飲む透視検査を一回経験済みだ。そのうちの胃カメラの一回はまだそんなお年頃じゃなかった頃、骨盤内腹膜炎になった時、嘔吐が止まらなくて診断のために飲まされたのだから、健診ではカメラとバリウム一回づつということになる。
私は胃カメラが大の苦手で、胃カメラ飲むくらいなら胃がんになって死んでやると思うくらい辛い。
カメラが入っている間中嘔吐が止まらないし、吐き出そうとするのでカメラのチューブを食道が締め付けて傷がつくし、健康だった胃があれる気がする。胃カメラなんて病気をつくる機械だとハッキリ断言出来るほどだ。
バリウムはそんなに苦しくない。げっぷを我慢するのが辛いと他人は言うけど、私はもともとゲップをあまりしないので、辛いとも思わなかった。ただ、あれは放射線を長いこと浴びるのが何となく嫌で、積極的に受けたくない。
で、今年はどっちも絶対しない!と断言していたのだが、具合が悪いんじゃ仕方が無いかと思って、胃カメラを飲むことにした。
もうひとつ今回検査をする気になったのは、今年から当院に鼻から胃カメラを入れる機械が導入されたことにある。
口から入れるのは絶対嫌だけど、鼻からなら何とか我慢出来るかもしれない。
そう思ったのだ。
で、まだ一般の患者には実施していない鼻から胃カメラを実地訓練もかねて私に行なうことになった。
病院の職員というのはいろいろ大変だ。
新卒の看護師の採血の実験台には必ず職員があたる。そりゃもう何度も刺される。
次は点滴。点滴の方が採血より難しい。血管の中に針を通さないといけないのだから。こっちの方がもっとたくさん刺される。右腕にさんざ刺した後、入らなくて左腕。それでも駄目なら手の甲。最後には足にまで刺される。
「てめぇらみんなミシンで縫ってやるぞ!」と言いたくなるときがある。
今回の鼻からカメラも似たようなもんだった。
妙に綺麗なマニュアルがでんと置かれ、まずそれを複数の看護師が読みながら「こうかね〜」「ああかね〜」と言いながら私に処置を施す。本当は口から飲むはずの薬を鼻から入れられたり、行程を飛ばされたり、いろいろだ。こういう経験があって患者のみなさまに安全な医療が提供出来るようになるのだ。うんうん。
前処置の段階で鼻からいろんな液を入れられたのだが、(本当は麻酔も含めて2種類で良かったようだが、私は妙にたくさん、しかもすごい量入れてもらった。別に身体に害のあるものは何にも無かったから大丈夫。)それで右と左、どちらの鼻の方が通りが良いのか選ばなければならない。最終的にはどっちの穴かを決めて、片方に麻酔を入れる。(私は両方入れられたけどね)
これを決めるのはみんな簡単なんだろうか。
私は両方の鼻の穴に何度も入れられたのだが、「どっちが良い?」と訊かれて非常に困った。
分からへんやん。
最終的には適当に右と決めた。
男の人より女の人の方がどうやら鼻の穴は狭いようだ。
私は鼻の穴がでかいので大丈夫と思っていたが、やっぱり人並みだったのかなかなか入らなかった。
鼻から入れるカメラは口から入れるカメラよりもずっと細いのだが、鼻からものを食べたことも無い私はどうして良いのか分からない。看護師には「鼻歌を歌え」と言われたが、こんな時には何の曲も思い浮かばない。
そのうちに真面目で一生懸命な看護師は「♪ぽっぽっぽ〜はとぽっぽ〜」と私の背中に回って歌い出した。
私にもそれを歌えというのか。
しかも鼻歌で。
もうやけくそで一緒に歌う。
するとハトの歌がきいたのか「お!入った!!」と医師がぐいぐいと突っ込んできた。
やっぱりうげえとなった。
口から入ろうが鼻から入ろうが喉を通るのには変わりがなかったと気がついても後の祭り。
先生はゆっくりと慎重に、しかし止まることなく「苦しいですか〜?」と気休めの声をかけながらどんどん中へ入れていく。
苦しいって言ったって「我慢してくださいね〜」って言うだけのくせに。
もう苦しいよ〜。胃まで行ったよね〜?と思ったのに「今食道ですよ〜」という医師の声。
もういっそのことぐいぐい突っ込んでさっさと終わらせてくれ〜と泣きそうになる。<いや、実際泣いてた。
口から胃カメラと違うのはカメラが入りながら話が普通に出来ること。口で息が出来て話が出来るっていうのは身体のこわばりを解くのに役立つ。看護師も先生もとにかく「話して」「歌って」を連発。
歌うって言ってもはとぽっぽじゃな〜と思うと、後は話すんだけど、こっちはよく知っている職員だからつい恨み言になる。愚痴を言いながら胃カメラ。
そのうち他の医師が様子を見に来たりなんかして(私が心配とかじゃなくて新しい機械を見に来ただけ)、私の目の前でピースサインなんか送ってよこす。こっちはうげうげしながら泣いてるのに。
でも胃まで到達したあたりから楽になってきた。
こつが呑み込めたというか、管が気にならなくなってきたというか。
そうすると後は普通にしゃべって普通に息が出来た。最終的には口から胃カメラより遥かに鼻から胃カメラの方が楽だということになった。
結局、潰瘍は見つからなかった。
私のこの症状はもしかしたら胆のうから来ているのかも。ということで今度は超音波の検査をする予定だ。
まだ薬は飲んでいるし、症状もなくならない。
でももうどーでもいいやという感じ。
病気が見つかったところでやっぱり残業は減らないし、検査をすることになっても仕事は休めないし。
胃カメラが終わったすぐ後、まだ検査液が鼻から垂れてくる状態で仕事に戻って、その日も残業となった。<だけど肩こりが辛くて途中で残業を止めて鍼に行ったけど。
ま、大した病気ではないことはこれで分かった。
そもそも痩せないし。
いい経験が出来た。
でも来年職員健診でやっぱりカメラを飲むかどうかはまだ分からないけどね。


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